TOKYO FRONTLINE 2022
グランプリ
小林菜奈子
『距離のない距離の移動』
ある外国のネットニュースに掲載されていた「1枚のQRコード」が写った写真を私は興味本位で読み取った。
すると自分のスマートフォンには、飲食店のメニュー表が写し出されたのだ。遠く離れた日本の地でも海外の飲食店にいるような高揚感と共に、どこか不思議な感覚を味わった。
美術家エドムント・デ・ワールの「収集はその地に根を下ろす最適な方法である」という言葉がある。インターネットが発達し、人間は更に多くの膨大なイメージと共に生活を送っている。
「見ること」 と「食べること」 が同居すると同時に、 「見ること」 と「訪れること」 の墳界線が曖昧になってきた。見るという行為が人間にとって不可避な事態として浮かび上がってくるのに対し、訪れる行為は少しばかり可避できる、可避する時代となったのである。虚像と実像が入り混じる中でこれら2つの要素を収集し、つなぎ合わせてできた新しい世界。私たちを取り巻く世界の要素はマトリクス状に配置され、どこへでも自由に行き来し、どんな地にでも根を下ろすことが可能となった。
この作品は自ら収集してきた飲食店のQRコードメニューを皮切りに、関連する地を、虚と実交えながら訪れていく旅である。遠い地の料理を見て想像しても、実際に食ぺることだけはできない。虚像と実像を行き来することで、そんな着々と変わりゆく生活様式を垣間見ることを試みている。
Instagram:@nuff3
準グランプリ
ノセレーナ
『ピョンコス/PYONCOS』
ファッションは写真だ!
美しい瞬間を捉えたかと思えばその次の瞬間にはまた新たな美しさが現れて、もっともっと欲しくなる。
ファッションは魔法のように、世界をときめきでいっぱいにする。
わたしは家のなかにあるものをコーディネートして、気分が上がるルックをつくることが好きだ。お気に入りの服や日用品が持つ、どこか間抜けで愛おしい「キュン」とする要素を抽出して、画面のなかに凝縮することを目指している。
わたしは写真でファッションを表現したいのだ!
Instagram: @reina017nose
準グランプリ
ファン ジェー(FAN JIE)
『トルソー Torso』
トルソー:首・四肢のない、胴体だけの彫刻。建てられた時にそうだったり、人に壊されたりします。
文字の発明によって人類の文明は始まり、都市は文明のシンボルである。都市は一枚一枚の人工風景つまり「ニュー・トポグラフィクス」から構成され、これら人口の風景は、また一つ一つの人工物から成り立っている。都市を人間の身体にたとえると、文字のない都市はまるでトルソーのように思考する脳と動く四肢が欠損し、人工物が「モノ」に格下され、人口風景が「シーン」に変わる。
Instagram:@lusa_fan
川島崇志個人賞
苅部太郎
『あの海に見える岩を、弓で射よ』
TV画面を流れる番組をグリッチ・ノイズだらけにして作った無意味な画像を人工知能に読み取らせて、そこにはない風景を見立てさせた。アルタミラの洞窟で壁のヒビや窪みを使ってバイソンが描かれ、夜空に浮かぶ無数の星々を線でつないで星座が生まれたように、ヒトは太古から「見立て」の欲望をもち、そこには不在のものを想像してきた。ヒトの認識は、混沌のなかに一定のパターンを探そうとするアポフェニア作用にとらわれ、蜃気楼のような視覚的現実を人それぞれに見出してしまう。いま人類が総出で育む人工知能も、アルゴリズム(=ものの見方の手続き)をヒトが決める以上、私たちと同じようにバイアスからは逃れられない。 意味の誤読が、この世界を豊かなものにも、残酷なものにも変えてしまう。バイアスは人を傷つけ、コピーエラーは芸術や生物の進化をドライヴさせる。オリジナルとモドキは溶け合い、いまも誤配が別様の星座を結び続けている。
Twitter: @tarokaribe
Instagram: @tarokaribe
千葉雅也個人賞 大山光平個人賞 佐々木敦個人賞
チョウトウヨウ (ZHAO TONGYANG)
『SLEEP INERTIA』
大切な人が亡くなったとき、生きている人はどんな心境で死を迎えるのだろうか。曽祖母の死に対する家族の態度を個人的にとらえ、自分や家族の心境を写真で表現してみた。
作品のタイトル「sleep inertia」というのは、長い休息から目覚めた瞬間に感じる、説明のつかない悲しみや非現実的な感情を意味する言葉である。理性の後退、情緒の膨大、現実と非現実の間にあるノスタルジ一、それは愛する人の死というテーマに直面した時に感じる、夢の端を彷徨うような感覚であると思う。
作品はほぼ両親が住んでいる家と周りのところ、曽祖母の昔の家とまわりのところでとった写真である。作品に木が何度も登場するのは、祖母が亡くなった夜、夜風に吹かれる葉の音がとても大きくからだ。時間が経つにつれて、この音が次第に私のマインドで、死と生の和音、祖母からの別れ、遠い憧れといったメタファーになっていった。
Instagram: @Hazelzz_z
多和田有希個人賞
西村祐馬
『Daily life in the bottle』
保存製の高いガラス瓶に誰かの‘日常’を 99 個詰め込んだ。その‘日常’は私が写した‘非日常’であると同時に 私がそこに‘存在’していたことの証明の記録でもある。いつかこの瓶はジオマッピングと称して各地に散布する かもしれない。そうすることで自身の存在を分散し遺すことができる。ただ、今この瞬間、この時だけは並列に羅列し比較してみる。もし今この瞬間目にしていた人が未来のどこかでこの瓶を見つけたのなら、あなたの‘日常’の中の‘非日常’として登場するだろう。私の‘日常’は誰かの‘非日常’となり誰かの‘日常は’私の‘非日常’となるのだ。そうしてこの作品は互いに‘存在’していたことの、100 個の証明となるのだ。
Instagram:@eden_uma